「彼女が好きなものは」を観てきました

「彼女が好きなものは」を観ました。

以下ネタバレを含みます。

 

 

【あらすじ】

 ゲイであることを隠して生きる高校生の純と、BL好きであることを秘密にしているクラスメイトの紗枝。思いがけず接近した二人は、紗枝が純のセクシュアリティを知らないまま、“ふつう”の男女としてつき合い始めるが……。
セクシュアルマイノリティの男子高校生と、BLをファンタジーとして享受していた女子高生が、生身の相手を通して自分や世間の壁に向き合うこの青春小説は、当事者の苦悩や生きづらさ、世の中の無知と誤解が引き起こす暴力、誰の心にも潜む無意識の偏見をひとつひとつ紐解いてみせる。それらと闘い、傷を負いながら自らの生き方を切り開いていく若者たちの物語が、このたび次世代期待のキャストで映画化。原作の問いかけを受けとめて一つのアンサーを見出した。

 

【感想】

アホほど泣いた。今年観た映画で一番良かった。

 

邦画が観たい気分だったから、上映スケジュールを見てなんとなく自分が好きっぽそうな映画を観に行った。上映開始5分で「あこれゲイのマイノリティの話なんだ、生きやすくなれるといいな主人公よ」と穿った目で見はじめ、三浦さんが出てきたあたりで「この同性愛者をフィクションとして楽しんでる子によく怒らないな」となり(それは純が自分がゲイであるために人の好きなものを否定する資格がないと思っているからなんだけど)温泉の場面で「絶対ゲイってことバレるじゃん…」となり、学校中に広まった後、純の幼馴染の亮平が公園まで迎えに来てくれるとこで泣いた。そこから集会の場面まで泣きっぱなしでしたわ…集会の場面、マジで最高だったな…

 

物語としては「ゲイとして生きづらさを感じている高校生が、男とか女とかではなく、ひとりの人として腐女子を好きになる過程」を描いた話です。正直主人公がゲイだと分かって付き合いそうな女の子が出てきた瞬間、マイノリティを対象にした「みんな平等だよね!わーい!」みたいな救いを見出す、テーマは深いし良い映画だったけどフィクションだったな…と若干モヤる予感がしました。気が付いたらギャン泣きですわ。亮平良いやつすぎるだろ。

話の一番の山場で、一番の救いポイントである”集会の場面”に至るまでの青春や葛藤や恋愛や真っ当な意見が全部自然すぎて、胸が締め付けられたり苦しくなったりニヤニヤしたりほんと大変でしたわ…集会の場面とか、誰も間違ったこと言ってなくそれぞれの正しいをぶつけ合った結果生まれたたいへんな摩擦を経てからの、集会の緩和よ……揺さぶられましたね……亮平の「いま大事なこと言おうとしてる最中だろうが!」でアホほど泣いたわ。その後の小野っちもかっけえし、三浦さんの演説は本当に感動してしまった…あの場面のためだけにある映画だったけど、それが本当に最高でしたね…あんなしんどいことあってからのあの救いポイントは全員泣くだろ。それくらい感動したり、やっぱり作り手のメッセージが自然かつ真っすぐしっかり伝わる映画は本当に好きだなあと思った次第でした。

 

公園と階段の場面でこれいけるか…?と思わせてからの落差がエグい。でも小野君の言ってることも正しいしわかるんだよな…今日お前ちんこ触らなかっただろって言われて観てる人全員確かに…ってなったでしょ、そうなんよ。でも亮平は悪くないよ。お前が一番いいやつだよ。お前みたいなやつが将来モデルみたいな美女と結婚できるんよ。と見せかけて今宮さんと付き合って円満に結婚するんだろ、わかってるよ亮平。お前初登場時ウザすぎるけどずっと変わらない態度でいてくれたこと本当にすごい事だからな。登場人物みんな大好きだけどお前が一番大好きだよ。俺も友達に亮平みたいに接したいなって思ったよ亮平ありがとな。

 

壁を作っているのは自分が嫌いで私たちが好きだからです。私たちが混乱しないように壁を作ってるんです。という台詞、本当にすごいな、実生活で経験したことなくてもそれまでの純の物語でそれが伝わってるからすっと入るし、三浦さん本当に純のこと好きなんだな…って思えたね。で翻って自分を顧みた時にそんな風に人に接したことってあんまないな、そういう風に考えている人もいるんだな、俺も想像力をもっていきないとアカンなと身の振り方を考えるんですよね。いやこれ本当にすごい映画だな。

 

純も三浦さんもそうだけど、映画に出てくる人たちは全員それぞれ誠実に生きていて、真っすぐな故お互い傷つけちゃうこともあるんだろうけど、それがないと人として向き合うことが難しんやな…って思わされた映画でした。男とか女とかではなく、自分以外の人との付き合い方や向き合い方を顧みさせる映画だったよ…。ポップでキャッチーな映画やろ!と観始めたら体の奥の部分に無理やり目を向かされて、今自分が感じたことを全部書き留めたくてSNSじゃなくてメモを開いてしまうこの感じ、「勝手にふるえてろ」や「ズートピア」と似ている。本当に良い映画だった。

今年観た中では「花恋」「街の上で」「ドライブマイカー」に次ぐ相当好きな部類に入りました。そして中でも抜きんでて震わされちゃったから今年観た映画で一番好きです。マイノリティに焦点を当てているという点でドライブマイカーと似ているけれど、あの映画は人生に絶望したことあればあるほど刺さる映画だと思ってます。

「彼女が好きなものは」は「自分これ好きなんだけどあんま世間的には許される感じないよな~」という要素(それは純にとってはゲイで、三浦さんにとってはBLなんだけど)という想いがある人であれば、程度はあれ全員が共感できるんじゃないかと思いました…。

自分は同性愛者ではないし、社会の一般論と自分の感覚が違うな、と思うのは正直あまりない。言い方が正しいかは分からないけれど、生きていくことに支障は無い。もちろん就活が決まらない、みたいに社会性の欠如や能力の低さは感じるけど、それは人間的に劣っているというよりも就活の仕方を知らないことや自分の自己学習が足りないってだけで、努力すれば変えられるものだと思っている。

そういうのって能力であって、生まれ持った属性や変えることが難しい性質ではない。その、先天的に備わったそれらが、社会に容認されるかされないかで今の生きやすさが決まって、それが多い人ほど絶望を抱えて生きているんだろうなあと思った夜になりました。属性や性質としてのマイノリティに対して、世間的に認めあう世の中になんて守護の広い言葉を使わずに、一人ひとりが想像力をもって接してあげたいよなあと思いました。それこそ「自分と違うキャラみたいに扱わない」という小野っちの言葉を思い出すのですが、お前ほんと良いこと言うな。

 

他にも気になった3人の登場人物や場面的にん?と思った個所など書きたいことはいくつがあるのですが一旦やめにします。ずっと神尾風珠の顔が良いのでそこだけでも見る価値あります。本当に良い映画だったので皆観てください。(2,852文字)