トマトさんと太宰府天満宮とトゥルーマンショー

6月から10月まで行ったり来たりする出張の中で、この土日は滞在することが出来た唯一の週末になる気がしている。

 

【金曜の夜】

金曜日の夜、仕事終わりにTinderで知り合った女性と飲みに行った。彼女のプロフィールの名前にはトマトと書いてあった。彼女は天神まで自転車で来るらしく「青色のシャツで自転車漕いでます」と目印となる容姿を教えてくれた。彼女と合流する直前に、自分は先に彼女を見つけることが出来た。自分より身長が低くて安心した。

 

天神と中洲川端の間にある喫煙可能な居酒屋に入って、彼女の話を聞いた。僕よりも幾つか年上の彼女は、自分よりも遥かに人生経験が豊富で、彼女の人生の盛衰を享受しながらずっと喰らってしまっていた。「喰らう」という感情はどう説明して良いか分からないけど、言語化すると「自分と対象を比較して自分の現状を反省する」に近いような気がする。

 

初めて会う彼女に地元の仲の良い友人のように接してしまったことを今更ながら申し訳なく思う。友人に誘われて、小説を書いた話もした。書いたものの、自分主体で発生した熱量ではなく、かつ、それがどうにもなりそうにもないことも吐き出した。彼女も、自分と同じような経験をしたことがあるらしかった。「それが無いと生きていけないで何かに取り組んでいる人と自分を比べて、その熱量の差に自分は凡人であることを思い知るよね」という言葉は、まるで自分の口から出たもののようだった。

 

「けど」と、彼女は言葉を続けた。「けど、その人たちが自分に関わってくれていたり、『あなたは特別だから』って言ってくれてることにさ、『私には彼らを惹きつける何かがある』と思った方が良いよね」そう言って彼女は「こうでも思ってないとやってられないよ」と笑った。自分もいつかその自負を持てる日が来るだろうか。

 

非凡になりたい凡人同士で酒を飲み合い、中洲川端駅前で解散した。金曜日の夜に浮付く街の中を大音量でバンドの曲を聴きながら帰った。気分が良かった。雨は降らなかった。

 

【土曜の雨】

11時ごろに起きて、シャワーを浴びて、そのまま出掛けた。何も予定が無いと一日中家に居てダラダラと過ごすことは明白だったので、土日のどちらかは外出する必要があると感じていた。せっかくの福岡での週末なのに東京での週末と同じことをしてしまうと、勿体無いとも思った。timesで車を借りて太宰府天満宮へ向かった。向かう途中で腹が減ったのでマクドナルドを食べた。雨は降っていた。

 

太宰府天満宮は、何年か前に家族で来たことがあるようで、薄ぼんやりと記憶は残っていた。雨に打たれる木々と、セミの音が静かに聞こえて心地が良かった。太宰府天満宮を出る直前から雨が強くなってきて、人生で一番と言っていい程の大雨の中、車を運転した。何事も無く運転出来て良かった。

 

現場から遠く見えていた、志賀島に何となく行くべきだと思った。山奥の道を通って、潮見公園展望台に行った。雨は止み始めていたが、こんな天気に展望台に行く人など一人もいなくて、誰も居ない観光地を有難く思った。森から霧が湧き出ていて、いろんな種類の鳥の声がした。

 

車を返して、スーパーで唐揚げを買って食べた。特に意味も無く夜更かしをして、これじゃいつもの週末と同じだと思った。

 

【日曜の家】

なんのやる気も起きなくて、14時ごろまで横になっていた。目玉2つにパスタを混ぜ合わせた超貧乏人のパスタを食べて、また寝た。気が付くと16時になっていた。土曜日に買ったポップコーンとジンジャーエールが残っていたので、トゥルーマンショーを見た。胸糞さや思ったような展開にならない息苦しさを感じていたが、終わり方がお洒落だったので何でも良かった。スーパーで刺身を買って海鮮丼として食べた。

 

今は雷が鳴っている。また雨だ。